慶應日記@はてな・乙

慶應義塾大学・通信教育課程・法学部・乙類・70期・学士入学の学習記録・復習ノートなどなど。こちらでは乙類の科目(政治学)を扱う予定です。

畑 農 ・砂原(2004):財政支出の決定要因:主要先進諸国の実証分析

財政支出の決定要因:主要先進諸国の実証分析

畑 農 ・砂原(2004):財政支出の決定要因:主要先進諸国の実証分析

https://www.jstage.jst.go.jp/article/pcs1981/2005/45/2005_45_45/_pdf

財政支出の要因

経済的要因、政治的要因、国際的要因

・経済的要因:都市化や工業化によって社会資本が必要とされて政府の支出が拡大
具体的な変数としては、一人当たりGDPの上昇や都市化の進展、高齢化率の上昇

Pampel and Williamson [1988] …高齢化などの環境変数をあげるもの

Iversen and Cusack [2000]…農業・工業中心の就業構造がサービス業中心へと変化したことが重要であると主張するもの

「ワグナー仮説」:経済の発展とともに公共部門の規模が拡大するという

・政治的要因

政治家が有権者の歓心を引くために公共財を過剰に供給、民主制という政治体制自体が構造的に財政拡大を招くとした分析(Buchanan and Wagner [1977])

Roubini and Sachs [1989] …公的部門の拡大という現象の中でも政府赤字の拡大に注目し、OECD諸国における政治過程での制度配置の違いが異なる国によって財政赤字のパターンの違いを生み出すことを説明し、財政赤字と公的債務の管理に関する知見を得ようとした。
→財政に関する均衡理論が1973年の石油危機後の財政赤字・公的債務の拡大を説明するのに不十分であることを示した上で、均衡理論とは異なった、税と消費に関する構造モデルを提示
→政治変数(政治形態=大統領制か、一党優位か、複数党連立政権か、など)であり、それが財政赤字・公的債務の拡大に一定程度の影響をもっていることが実証されている

Perrson, Roland and Tabellini [1997; 2000]…政治体制の違いが政府支出の違いをどのように生み出すか


Huber, Ragin, and Stephens [1993], Cusack [1997; 1999] …大きな政府を志向する左翼勢力の強さ、あるいは論者によってはキリスト教民主主義勢力の強さから財政の拡大を説明するという形式を採る

Cusack [1997]…対象とする期間が比較的早い時期のものであれば左翼勢力の強さが有効な要因になると主張

Hicks and Swank [1992]…、変数をある程度操作して分析を行ってもそれほど有意な結果は見られていない

Blais, Blake, and Dion [1993] …左翼勢力と右翼勢力の違いがあるにしても全体的にその影響は弱いものであると考えられる

Swank [1988]…石油ショック以前は右翼勢力の影響力が財政支出の減少をもたらし石油ショック以後は中道勢力が財政を拡大させたとする主張

Cusack [1999]…70年代以降にはほとんど影響がなくなっているという主張

Persson and Tabellini [2000] …政策アウトプットである財政に影響をもたらす要因として政治制度の差異

・グローバリゼーションの進展
経済の開放度が高まると、競争圧力が生産要素市場に影響を及ぼし、失業の増加や資本移動の激化を発生させる。政府はこのような生産要素市場の変動リスクによる国民の厚生低下を補うための介入を企図し、公的部門が増大するというのである

Cameron [1978] …先進資本主義国18カ国のデータ(1960-1975)を用いて、なぜ財政拡大(租税収入)の伸び率が国ごとに大きく違うのか→国際的要因が公的部門の拡大にもっとも影響を与えている

Garrett [1995] …以下の2仮説→前者が支持される
競争に直面して、競争力を向上させるために大きな政府が介入を行う(Compensation)…資本移動と貿易の増加によって左翼勢力と財政拡大の結合が強まる
競争に直面することで、左翼勢力の大きな政府が介入する能力を減少させる(Efficiency)…資本移動と貿易の増加によって左翼勢力と財政拡大の結合が弱まる

Garrett and Mitchell [2001]…国際貿易や資本市場の自由化といったグローバリゼーションに関連する要因が、政府の支出総額や政府消費・社会保障移転などに有意な負の効果をもたらすという効率仮説が支持される

Rodrik [1998] …サンプルをOECDだけではなく途上国も含めてクロスセクションの回帰分析を行い、補償仮説が妥当することを主張

Alesina and Wacziarg [1998]…途上国も含めたクロスセクションのサンプルで国の規模(小国であること)が政府支出と貿易の開放度どちらにも影響している

・分析方法

被説明変数:政府消費Government consumption・移転所得Transfer・政府投資Government investment

説明変数:貿易開放度Openness・政党政治Partisan Politics・成長率・失業率、左翼政党の議席占有率・選挙での投票獲得率、Social Democracy / Christian Democracy、といった政体Polityに注目してダミー変数を採る例(Huber, Ragin and Stephens [1993]